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2008年10月12日





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大事なのは『無謀さ』。考えすぎたら前に進めない。 藤原和博
「よのなか科」という授業が全国的に注目を集めている。これは、正解が一つではない課題を採り上げ、大人と子どもが議論をしながら学ぶ授業。中学3年生の総合で年30回ほど行われ、校長自らが教壇に立つ。この授業を考案したのが、東京都で初の民間人中学校長として話題となった藤原和博氏。情報誌文化を創出し、優秀な人材の宝庫と呼ばれるリクルート社で幹部として最前線を張っていたリクルートマンである。その藤原校長の瞳には、現在の就職戦線はどのようにうつっているのだろうか。
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ふじはら・かずひろ
1955年、東京生まれ。78年東京大学経済学部卒業、リクルート入社。いきなり2年連続トップセールス。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任し、リクルートの躍進を支える一人となる。93年からヨーロッパ駐在、96年に同社初のフェロー(客員社員)に就任。02年からビジネスマンと兼務で杉並区教育委員会・参与(教育改革担当)となり、小中学校での教育改革に関わる。03年4月から、義務教育では東京都初の民間人校長として、杉並区立和田中学校校長に就任。自ら開発した「よのなか科」をはじめとするユニークな試みが全国的に注目を集めている。『人生の教科書 よのなかのルール』(共著)、『「ビミョーな未来」をどう生きるか』など著書多数。

20代のうちはどんどん打ち出して、経験と技術を積むこと。
―――東京都で民間初の中学校校長となって3年。学校の革新というプロジェクトをすすめている立場からみて、やりたいことが見つからないという大学生がとても多いという現状についてはどのようにお考えですか。
無理もないことだと思います。大学のうちからはっきりやりたいことが見えている学生はほとんどまれで、いかにキャリア教育をしても「私はこれがやりたい」と決められる人が増えるとは思いません。よく、今の若者は夢がないと言う人がいますが、僕は非常にズレた発言だと思います。いろいろな経験と技術を蓄積していくと「夢やビジョンが向こうから近づいてくる」というのが正しい考え方。何もしないうちから、これが私の夢だとかビジョンだとかいうのは幻想に過ぎません。たとえばボランティアをするでも、屋久島の千年杉を見に行くでも、何でもいいんです。そういう経験と技術をある程度積んでいってようやく夢やビジョンが見えてくる。これを強調したいですね。

―――確かに、社会に出て経験を積んで、はじめて分かることはとても多いです。
たとえば、僕は今、中学校の校長をしています。4年目になるのですが、6、7年ほど前には校長をやるなんて思いもよらなかった。あるいは、大学を卒業してリクルート(当時は日本リクルートセンター)という会社に入ったのですが、これも就職する2年前までは思いもよらなかった。ましてや、中学や高校時代はなんのイメージもなかったんです。リクルートに入りたいとも、校長になって学校の教育改革をリードしたいとも、夢にも思わなかった。それが、ほとんどの大人の現実だと思うんです。それを忘れて、子どもたちに夢を抱けというのは非常に無責任な発言ですね。

―――校長をされている中学校の生徒たちには、将来についてどのような指導をされているのですか。
中学生は抽象的なことだと分かりにくいのでゲームにたとえます。ロールプレイングゲームでいろんな敵と戦って経験値を上げるのと同じことなんだと。経験を積まないと次のステージに進めないし、何が目的かも見えてこない。この経験値のことを僕は「クレジットレベル」と呼んでいます。自分の信用と他人からの共感を高めていかないと、夢も希望も何がやりたいのかも見えてこない。君たちは今、クレジットレベルを上げるために英語や数学を勉強しているんだと伝えています。

―――経験を積むうえで心掛けることはありますか。
一番大事なのは、無謀さ。就職するにしてもキャリアをつくるにしても、もっとも大事なことは適度な無謀さ、もしくは思い切りのよさ。考えすぎたら前に進めない。クレジットレベルがない状態でいくら先を見ようとしても見えないんです。社会は常に変化するものだから見えるわけがない。

―――無謀なくらい積極的にチャレンジするべきということですね。
僕はこのことをよく霧のかかったゴルフにたとえています。先に何があるか分からない。でも、前がどっちかは分かる。振り出していけば前には進める。それを霧が晴れるまで待っていたり、風向きがどうだとか言って打ち出さなかったり、打ち出す勇気のない人ばかりになっている。どんなに下手でも打ち出した人のほうが前に進めるんです。どんなプロでもNASAの技術を持ってしても、必ず一打でカップに入れるのは無理でしょう? 打ち出した瞬間に風向きが変わることもある。それが社会というもの。考えすぎて何もやらないより、20代のうちはどんどん打ち出していってほしいですね。

―――学生たちは就職をする際に、失敗したくない、自分にもっとも合った仕事を探したいと思うがゆえ、考えすぎてしまっているのでしょうね。
最初の職場では、上司と合わないから辞めましたというのがあってもいい。20代前半は、思ったところと違ったということがあって無理もないんです。 ただし、30代前半までには一カ所で5年間働くこと。5年ともたないで、ただ青い鳥を追いかけて転職を繰り返すだけの人がいますが、そういう人は次に転職をしてももたない。20代後半から30代前半までにひとつの組織で5年間。これが大事。そうじゃないと、自分のクレジットレベルが著しく下がるので企業は採用しない。それどころか、そういう人は一人で仕事することもおそらくできないでしょうね。自営業はもっと厳しい世界ですから。どんな仕事でも5年やれば、いい面も悪い面も見えてきます。さまざまな出来事を乗り越えたという経験が大事なんです。

―――経験値を増やすために、学生時代にはどう過ごしたらよいでしょうか。
誤解されるとよくないけど、学生時代は危ないことをやっておいたほうがいい。たとえば一人旅。どんなところでも、仲間と群れて行くのと一人で行くのとでは学ぶことが百倍違う。行くと決めたらぜひ一人で行ってほしい。一人で行動しなければつかめない。リスクはあるけど、とにかく一人で生きてみる。そういう意味での危ないことですね。今の時代はそうやって自分で自分を追い込んでいかないと経験値は増やせないんです。

―――もし、藤原先生が企業の採用担当なら、学生の経験値を重視しますか。
そう、どれだけ経験を積んできたかということをみます。その経験が、ひたすらアルバイトをしたでもいいと思う。もし学生時代に100種類のアルバイトをしたという人がいたとしたら採用したくなります。何がおもしろかったとか、つらかったとか、どんな役得があったとか、あらゆる会話が発生しますよね。それだけで営業の世界では絶対通用します。たとえば短期で3日ごとにやる仕事を変えれば、1年で100種類のアルバイトを経験できますから。

―――確かにおもしろそうですね。話を聞いてみたくなります。
大学の4年間というのは、特定の技術を追いかける学生以外、十分な経験を積むだけの時間があります。そこで何をするかということが20代後半から30代前半まで、どのような仕事をしてきたかと同じくらい重いことだと思う。これからはコミュニケーションの時代。コミュニケーションのネタをどれだけ持っているかということが非常に大事。少ない経験を言葉で飾って話すのではなく、話し上手でなくても持っている引き出しが広くて深い、いくつも引き出しを持っている人間が勝ちます。口下手でも中身があればいい。上手く話せるかどうかはまた別の問題なんです。

―――なるほど。
どこの大学を出ようと、クレジットレベルというものを自分で描いてみせないと。それを面接でプレゼンしないと勝ち抜けない。自分のポテンシャルをどこでみせるかということ。ボランティアワークや一人旅という経験をみせるわけです。不本意ながら有名大学に入れなかったと思っている学生にとって、これは最高の挽回のチャンス。あと5年か10年すれば、仮に東大を出ていようとも、4年間で何も経験していない学生を企業は採用しなくなりますよ。世界の採用基準はすでにそうなっています。

―――最後に、就職を控えた学生にメッセージをお願いします。
相手に感動を与えるということを意識して大学生活を過ごしてください。今の日本人は、いい意味での腹黒さが決定的に足りない。きれいな言葉で言うと戦略性になります。目的を達成するための健全な腹黒さ、戦略性が大事。学生時代には相手に感動を与えるということを意識して、戦略的に経験を積んでほしいと思いますね。


取材が終わった後、しばらく二人で話をする機会に恵まれた。時間にしてほんの4、5分。中学校の玄関で、たわいない話。でも、それだけで十分、教育への思いが伝わったような気がした。「無謀になれ、危ないことをやれ、腹黒くなれ」。インタビューの肝となる部分で刺激的な言葉を放ちつつも、その裏には教育に対する熱くて優しい顔がはっきりと表れていた。大学の4年間というかけがいのない年月を、1秒も無駄にすることなく、大切に過ごしてほしい。そのために、この「フリーペーパー23(ツースリー)」がほんのわずかでも、役に立ちますように。そう願っています。

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校長室の図書コーナー
開かれた学校づくりは校長室から。校長室を開放し、生徒が自由に本選びや読書ができるようになっている。取材時もたくさんの生徒が訪れていた。


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緑あふれる環境
最寄りの東高円寺駅から中学校へと続く道は、緑にあふれた遊歩道になっている。
学校の敷地内にも、色とりどりの花々が咲き誇っていた。体育館横には芝生の校庭もある。

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